子どもの嘔吐・下痢はウイルス性?受診すべきタイミングと家庭での対処法
お子さんが突然嘔吐や下痢を繰り返すと、保護者の方はとても不安になります。 病院を受診したほうが良いのか、それとも自宅で様子を見ても大丈夫なのか、判断に迷ってしまうことも多いですよね。
嘔吐や下痢はウイルス性胃腸炎が原因のことが多いですが、受診すべきタイミングを知っておくことで、安心して対応できるようになります。
この記事では、すぐに医療機関へ行くべきサイン、自宅でできるケアのポイントなど、お子さんを守るために役立つ情報をまとめました。慌てずに見極めて、安心して看病できるようにしましょう。
子どもの嘔吐・下痢の主な原因はウイルス性胃腸炎
子どもの嘔吐や下痢は、小児科外来で風邪に次いで多くみられる症状です。
原因として最も多いのはウイルス性胃腸炎です。ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスによって胃腸(主に小腸)の粘膜に炎症が起き、急に吐いたり下痢をしたりします。昔は「おなかのかぜ」「はきくだし」と呼ばれていました。
特に11月〜3月は腹痛・嘔吐・下痢を主な症状とする感染性胃腸炎が増える時期ですが、季節に関係なく起こることもあります。
ノロウイルスとロタウイルスの違いと症状
ウイルス性胃腸炎の原因として特に多いものにノロウイルスがあります。また、ロタウイルスや腸管アデノウイルスによる胃腸炎は、乳幼児に多くみられるのが特徴です。
ノロウイルスの特徴
ノロウイルスによる胃腸炎は11月から2月に流行し、すべての年齢層に感染します。食品を介した感染や、人から人への感染で広がりやすく、集団発生が多い点でも注意が必要です。
潜伏期間は1〜2日で、嘔吐で始まり、その後に下痢が出てくることが多いとされています。
発熱はあまり高くならないことが一般的で、38℃以下のことが多いです。症状の持続期間はおおむね1〜2日ほどで自然に軽快します。
ロタウイルスの特徴
ロタウイルスは3月から5月に多く、特に6か月から2歳の乳幼児が感染しやすいウイルスです。ほとんどの子どもが5歳までに一度は感染するといわれています。
典型的な症状は白っぽく、酸っぱいにおいの水様便で、米のとぎ汁のようになることもあります。
また、発熱を伴うこともあります。けいれんが見られる場合は、熱によって起こる「熱性けいれん」よりも、胃腸炎に伴って起こる「胃腸炎関連けいれん(CwG)」が多いとされています。
多くは後遺症を残さず自然に回復するタイプですが、けいれんがあれば受診をおすすめします。
下痢の期間は平均5〜6日と長めで、脱水に注意が必要です。予防にはロタウイルスワクチンが有効で、1回目の接種は生後14週6日までに開始する必要があります。
細菌性胃腸炎やその他の原因との見分け方
ウイルス性胃腸炎以外にも、細菌が原因で子どもが下痢や嘔吐を起こすことがあります。見分け方のポイントを押さえておきましょう。
細菌性胃腸炎の特徴
細菌性胃腸炎は、カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌などの細菌によって引き起こされます。
ウイルス性胃腸炎に比べて、腹痛や下痢が強く、高熱や血便を伴うことが多いのが特徴です。
牛・豚・鶏などの家畜が保菌。特に鶏卵が感染源となりやすいです。潜伏期間は8〜24時間で、発熱、腹痛、嘔吐、下痢が急に始まります。水様性下痢や粘血便を伴うことがあります。
家畜やペットの腸管に寄生。加熱不十分な肉(特に鶏肉)を食べた際に感染します。潜伏期間は1〜7日で、腹痛、下痢、発熱、倦怠感、頭痛などの症状が出ます。
- 血便の有無:血便や粘液便が出やすい
- 発熱の程度:高熱になることが多い
- 食歴:生卵、加熱不十分な肉などを食べた履歴がある場合は要注意
症状だけでの判断は難しいため、高熱や血便がある場合は便培養検査で確定診断を行います。家庭では手洗いや加熱調理を徹底することが予防に繋がります。
子どもの嘔吐・下痢ですぐに病院を受診すべき危険なサイン
子どもの嘔吐や下痢は、多くの場合は自然に落ち着きます。しかし、中には早めに受診が必要なサインもあります。
どのような症状に注意すればよいでしょうか。
脱水症状の見極め方と緊急受診の目安
嘔吐や下痢が続くと、体の水分量が不足して脱水症状を起こすことがあります。
これらの症状の多くは、ノロウイルスやロタウイルスなどによるウイルス性胃腸炎、または細菌性胃腸炎といった「感染性胃腸炎」によって起こります。
子どもは大人より体内の水分量が多く、代謝も活発なため、脱水になりやすいとされています。
脱水症状のチェックポイント
以下のような症状がみられる場合は、脱水症状が重症化する恐れがあります。できるだけ早い小児科の受診をおすすめします。
- 泣いても涙が出ない
- 目が落ちくぼんでいる
- 皮膚や口唇が顕著に乾燥している
- 尿量が減少している
- ぐったりして元気がない
- 機嫌が悪い
※乳幼児では「元気がない」「機嫌が悪い」ことが、脱水症状のサインになることがあります。
また、生後6か月未満の発熱も注意が必要です。
- 3か月未満で38℃以上
- 3か月〜6か月で39℃以上
の場合は受診を検討してください。
※チェックポイントの症状がさらに強く現れたり、悪化がみられる場合は「緊急受診が必要な状態」と判断してください。
- 視線が合わない、反応が鈍い、異常な行動がみられる
- 5分以上続くけいれん、または短時間でも繰り返す/けいれん後に意識が戻らない
- 顕著な脱水症状(尿量減少・涙なし・口唇乾燥・ぐったり など)
これらの症状がある場合は、夜間や休日にかかわらず、至急受診しましょう。
夜間や休日に判断に迷ったときの対応
休日や夜間に子どもの症状が悪化したとき、すぐに病院を受診した方がよいのか判断に迷うことはありませんか。
そんなときは「子ども医療電話相談事業(#8000)」を活用できます。
#8000は、夜間や休日の急な子どもの病気やけがに対して、「受診すべきか」「自宅で様子を見てもよいか」迷ったときに電話で医師・看護師へ相談できるサービスです。
全国どこからでも固定電話・スマホから「#8000」と押すと、都道府県の相談窓口につながり、小児科医や看護師から症状に応じた受診の目安や対処法のアドバイスが受けられます。
- 受付時間は都道府県によって異なりますが、多くは夕方〜翌朝に対応
- 土日の日中も受け付けている自治体が多い
- 相談は無料(通話料は利用者負担)
- 電話相談であり、診察などの医療行為は行われません
注意が必要な腸重積や髄膜炎の可能性
嘔吐や下痢の症状がある場合、まれではありますが、腸重積症や髄膜炎など緊急性の高い病気が隠れていることがあります。
以下のような症状がある場合は、夜間・休日を問わず至急受診してください。
腸重積症は腸の一部が他の腸に入り込んで腸閉塞を起こす病気で、生後3か月〜2歳(特に1歳未満)に多く見られます。
主なサインは次の通りです。
- 突然激しく泣き、数分でおさまることを10〜30分ごとに繰り返す(間欠的な激痛による啼泣)
- 繰り返す嘔吐
- 顔色が悪くぐったりすることがある
- 血が混ざったねっとりした便(いちごゼリー状便)が出る
腸重積は早期発見・処置が重要です。
診断には超音波検査などが用いられ、治療としては空気または造影剤による還納(手術を回避できることが多い処置)が行われます。
これらのサインがあれば、ためらわず救急受診してください。
髄膜炎は脳や脊髄を包む膜が炎症を起こす病気で、ウイルス性と細菌性があります。特に細菌性髄膜炎は重症化しやすく迅速な医療対応が必要です。
一般的な症状は発熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどですが、年齢によって出方が異なります。
| 乳幼児での注意サイン | ・ぐったりする ・哺乳や授乳が極端に悪くなる ・高くて甲高い泣き声 ・頭頂部(前頭泉・後頭泉)が膨らんでいる ・反応が鈍い(声をかけても反応が薄い) など ※乳児では首の硬さが分かりにくいことがあります。 |
|---|---|
| 幼児・学童での注意サイン | ・高熱 ・激しい頭痛 ・項部硬直(首が固く前に曲げられない) ・光を極端に嫌がる ・けいれん など |
発熱に伴って強い頭痛や嘔吐、意識障害、けいれんがある場合は緊急受診が必要です。
家庭でできる嘔吐・下痢の対処法
子どもが突然嘔吐や下痢を起こすと、つい慌ててしまいますよね。でも、正しい対処法を知っていれば、自宅でのケアで症状を和らげられます。
嘔吐や下痢で最も心配なのは脱水です。脱水は短時間で進行することもあり、放置すると重症化するおそれがあります。
子どもの体は大人より水分の割合が高く、水分調節機能も未熟なため、脱水状態になりやすい特徴があります。家庭での適切な水分補給と食事管理が、回復への近道となるのです。
嘔吐後の水分補給は少量ずつが基本
嘔吐した直後は、胃が何も受け付けられない状態になっています。この時期に焦って水分を与えると、再び吐いてしまうことに。
まずは嘔吐後30分から1時間ほど、胃を休ませましょう。吐き気が落ち着いてきたら、ティースプーン1杯程度(約5ml)の水分を与えます。ペットボトルのキャップ1杯分も同じくらいの量です。この少量を5分から10分おきに繰り返し飲ませてください。
1時間ほど続けて嘔吐が起きなければ、少しずつ1回の量を増やしていきます。この時、コップやストローを使うと勢いよく飲んでしまうため、スプーンで少しずつ飲ませるのがコツ。急にたくさん飲ませると腸の動きが悪化し、症状を悪化させてしまう場合があるのです。
根気強く少量ずつ与えることで、確実に水分補給ができます。
経口補水液を使った正しい水分の与え方
脱水予防には、経口補水液が最も適しています。お茶や水は吸収が悪く、スポーツドリンクでは必要な電解質が不足してしまうことがあります。
経口補水液は、ナトリウムとブドウ糖をバランス良く配合しているため、体に素早く吸収されます。市販品ではOS-1やアクアライトORSなどがあり、薬局やドラッグストアで購入できます。
経口補水療法では、まず最初の3〜4時間で脱水の補正を行うことが推奨されています。目安として、体重1kgあたり約50mLを与える方法が一般的です(例:体重10kgの場合は300〜500mL)。
その後は、嘔吐や下痢によって失われた分をその都度補うようにしましょう。欲しがるだけ与えるのが原則ですが、嘔吐がある場合はスプーンやスポイトで少しずつ、繰り返し飲ませてください。
経口補水液が飲めない場合や手に入らない時は、代用品を作ることもできます。水1リットルに砂糖40g(大さじ4杯半)と食塩3g(小さじ半分)を混ぜればOK。味が苦手な場合は、レモン果汁を少量加えると飲みやすくなります。
ただし、自宅で作る経口補水液は濃度の誤差が出ることもあるため、可能であれば市販の経口補水液を優先してください。
食事再開のタイミングと消化に良い食べ物
嘔吐が治まり、水分がしっかり摂れるようになったら、食事を再開できます。無理に食べさせる必要はありませんが、絶食期間が長すぎると腸の機能が低下し、回復が遅れることもあります。
食事再開の目安は、半日〜1日ほど水分が摂れてからです。「お腹が空いた」と言い出したら、食欲が戻ってきているサインなので、少量から始めましょう。
消化に良い食べ物として、おかゆ、柔らかく煮込んだうどん、豆腐、白身魚、茶わん蒸し、じゃがいもやかぼちゃの煮物などがあります。
最初は重湯から始め、慣れてきたら徐々に全粥へと濃度を高めていくのが理想的です。
避けるべき食べ物は、脂っこいもの、繊維の多い野菜(ごぼうなど)、乳製品、甘すぎるお菓子や炭酸飲料です。これらは胃腸に負担をかけ、症状を悪化させる可能性があります。
個人差はありますが、嘔吐や下痢が落ち着いてから数日かけて腸の機能は戻っていきます。2〜3日ほどかけて、少しずつ普段の食事に戻していきましょう。
家族への感染を防ぐケアと登園・登校の判断
嘔吐や下痢の症状が落ち着いてきても、排泄物中にはしばらくウイルスが残っていることがあります。そのため、家族への感染対策と保育園・学校への復帰時期の判断が重要になります。
ウイルス性胃腸炎は非常に感染力が強く、適切な処理をしないと家庭内で感染が広がってしまいます。特にノロウイルスやロタウイルスは、わずか数十個のウイルスでも感染する場合があるほど。正しい知識を持って、しっかりと対策を行いましょう。
嘔吐物や便の適切な処理と消毒方法
ウイルス性胃腸炎では、嘔吐物や便に大量のウイルスが含まれているため、正しい処理と消毒が重要です。消毒には次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤が効果的です。
※アルコール消毒液では、ノロウイルスなどには効果がほとんどありません。
家庭用塩素系漂白剤(ハイター・キッチンハイターなど:約5〜6%濃度)を水で薄めて使用します。
| 用途 | 濃度 | 作り方(500mlの場合) |
|---|---|---|
| 嘔吐物・便の処理 | 0.1% | ペットボトルキャップ2杯(約10ml) |
| ドアノブ・手すりなどの消毒 | 0.02% | ペットボトルキャップ半分(約2.5ml) |
処理の手順は以下のとおりです。
- 使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用
- 嘔吐物に新聞紙やペーパータオルをかぶせる
- 上から 0.1%消毒液 を十分に注ぐ
- 外側から内側へ向かって拭き取り、ビニール袋に密封して廃棄
- 汚れた床に消毒液を浸したペーパータオルを置き、10分間放置
- 拭き取り→最後に水拭き
※金属製品は消毒後そのまま放置すると錆びるため必ず水拭きしましょう。
衣類が汚れた場合は、まず水洗いで汚物を落としてから0.1%消毒液に30分浸すか、85℃以上の熱湯に1分間以上浸してから洗濯機へ入れましょう。いきなり洗濯機に入れると、洗濯槽や他の衣類が汚染される危険あるので要注意です。
- 嘔吐物などの酸性物質に塩素系漂白剤の原液をかけると有毒ガス発生のおそれがあるため、必ず薄めてから使用する
- 作り置きはせず、使用するたびに作る
- 容器には 「消毒液」と明記し、子どもの手の届かない場所に保管
保育園や学校への復帰時期の目安
感染性胃腸炎には、インフルエンザのような明確な出席停止期間がありません。
学校保健安全法では 「症状が軽快し、全身状態が良い者は登園・登校可能」 とされていますが、実際の判断は迷いやすいものです。登園・登校の目安は次の5つです。
- 丸1日以上嘔吐がない
- 通常の半分以上の量を食べられている
- 食後に腹痛・吐き気がない
- 解熱剤を使わずに24時間以上平熱が続いている
- 元気があり、園や学校生活を無理なく送れそうな状態
下痢が完全に治るまで待つと、1〜2週間かかることもあります。次の状態になれば登園・登校は可能です。
- 水様便が改善してきた
- ある程度形のある便になってきた
- 排便回数が普段のペースに戻ってきた
症状が落ち着いても、便の中のウイルス排泄は数週間(1か月程度のことも)続く場合があります。登園・登校後も、トイレの後の手洗いを徹底させましょう。
園によって対応が異なる場合があるため、復帰の手続きは事前に確認しておくことが大切です。保育園や幼稚園によっては登園許可証の提出を求められることがあり、流行状況に応じて各園が独自に復帰条件を厳しく設定しているケースも見られます。
不安がある場合は、あらかじめ園へ問い合わせ、必要に応じて医師の診察を受けておくと安心です。