痛くない鼻スプレー式フルミストの効果と副作用
お子さんがインフルエンザの注射を嫌がって困っていませんか?
フルミストは鼻にスプレーするだけで接種できる新しいタイプのワクチンです。針を使わないため、注射が苦手なお子さんでも安心して予防接種を受けられます。
欧米では以前から使われており、日本でも2024年シーズンから取り扱いが広がっています。
この記事では、フルミストの特徴や注意点などを分かりやすく解説します。
フルミストとは鼻にスプレーするインフルエンザワクチン
インフルエンザの予防接種といえば注射を思い浮かべる方が多いかもしれません。
フルミストは、鼻にスプレーするタイプのインフルエンザワクチンで、日本では経鼻ワクチンとして初めて承認された製剤です。
近年になって国内で接種できるようになり、注射以外の方法を希望する人の選択肢として利用され始めています。
弱毒化した生ワクチンを両鼻に噴霧する接種方法
フルミストには弱毒化されたインフルエンザウイルスが含まれており、生ワクチンとして位置づけられています。
生ワクチンは一般的に、体内でウイルスがごく弱いレベルで働くことで免疫がつきやすいとされますが、反応の出方には個人差があります。
接種は、左右の鼻に0.1mLずつスプレーする方法です。噴霧するだけで接種できるという点が特徴で、注射とは方法が大きく異なります。
ウイルスは低い温度の環境で増えやすく、喉より深い部分では増えにくいよう調整されていると説明されています。そのため、通常の感染のような強い症状が起きにくいとされています。
2024年から国内で接種可能になった新しいワクチン
フルミストは2023年3月に厚生労働省の承認を受け、2024年秋から日本でも医療機関で取り扱われるようになりました。これまでは国内で接種できませんでしたが、現在は医師の判断のもと接種を受けることができます。
アメリカでは2003年、ヨーロッパでは2011年から導入され、多くの国で使われているワクチンです。日本では第一三共株式会社が海外メーカーと契約し、販売を担当しています。
国内で承認されたことで、「予防接種健康被害救済制度」の対象にも含まれるようになり、万が一の健康被害に対する公的な救済が利用できます。
接種時の痛みがなく注射が苦手な子どもに適している
フルミストは針を使わないため、一般的な注射のような針の痛みがありません。鼻にスプレーする際に軽い違和感を覚えることはありますが、多くの場合は短時間で終わります。
子どもは注射に不安を感じやすいため、噴霧式のワクチンは心理的な負担が少なく感じられることがあります。
ただし、すべての人に適しているわけではなく、体質や持病などによって接種が難しい場合もあるため、接種希望時には医療機関で相談することが大切です。
フルミストで期待される働きと予防の仕組み
フルミストは、注射とは違う方法で体の免疫を高めるワクチンです。インフルエンザウイルスが入り込む鼻で直接免疫をつくる点が大きな特徴とされています。
発症を防ぐことや、症状が重くなるのを抑えることが期待できるワクチンとして、医療現場でも注目されています。
鼻の粘膜で免疫が働き侵入しようとするウイルスに備える
インフルエンザウイルスは、鼻やのどから体内に入り込みます。フルミストは鼻の中に噴霧するため、ウイルスの侵入経路そのものに免疫ができやすいと考えられています。
鼻や喉の粘膜で「IgA抗体」という種類の抗体がつくられ、ウイルスが体内に入り込む前の段階で働く粘膜免疫が期待されます。この粘膜免疫が、インフルエンザ感染を防ぐ助けになる可能性があると言われています。
一方、従来の注射型ワクチンは主に血液中で「IgG抗体」をつくるため、感染そのものを防ぐ力は個人差があるとされています。
発症を抑える働きと重症化を防ぐ働きの両方が期待される
- 発症を予防する
- 症状が重くなるのを抑える
鼻の粘膜で免疫ができると、ウイルスの侵入そのものを防ぐ助けになります。
また、血液の中でも免疫が作られるため、もし感染した場合でも症状が悪化しにくい可能性があると考えられています。
生ワクチンであるフルミストは、弱めたウイルスを使うことで、実際の感染に近い免疫反応を起こすとされます。
そのため、流行しているウイルスの型とワクチンの型が完全に一致しない場合でも、症状が軽く済む可能性があると説明されることがあります。
免疫の持続期間は約1年とされている
フルミストの働きは、一般的に約1年ほど続くとされています。従来の注射型ワクチンが数か月程度と言われるのに比べると、比較的長く続きやすい点が特徴とされています。
生ワクチンは実際の感染に近い形で免疫が働くため、体がその情報を覚えやすく、免疫が長持ちしやすいと考えられています。
そのため、季節外れのインフルエンザが発生した場合でも、広い期間にわたって備えられる可能性があります。
フルミストの副作用と接種後に起こりうる症状
フルミストは生ワクチンという性質上、接種後に軽い症状が出ることがあります。
ただし多くは数日で治まる軽いもので、安全性は確立されているとされています。どんな症状が出る可能性があるのか知っておくと、安心して接種を受けられます。
鼻水や鼻づまりなど鼻に関する軽い症状が出ることがある
フルミストは鼻に噴霧するワクチンのため、鼻に関係した症状が比較的よくみられます。国内の試験では、鼻水や鼻づまりなどが約6割の人にみられたという報告があります。
- 鼻水
- 鼻づまり
- くしゃみ など
これは鼻の粘膜で免疫が働いているサインとも考えられています。噴霧した液が喉に流れてくることがありますが、飲み込んでも問題ないとされています。
これらの症状は自然におさまることが多く、通常は数日以内に治まります。
発熱や咳などの軽い風邪のような症状が出ることもある
フルミストを接種した後、軽い風邪に似た症状が出ることがあります。
- 発熱
- 咳
- のどの痛み
- 頭痛
- 筋肉痛 など
いずれも多くは一時的で、自然に改善するとされています。
ただし症状が強い・長引く・心配な場合は、医療機関に相談することがすすめられています。他のワクチンと同様、アレルギー反応などが起こる可能性もゼロではありません。
注射のような腕の腫れや痛みがないのが大きな特徴
フルミストは針を使わないため、注射型ワクチンで起こりやすい「腕の痛み」「腫れ」がありません。注射を受けると腕が赤くなりやすい方にとっては、負担が少ない選択肢になる可能性があります。
その一方で、鼻に噴霧する特性上、鼻水や鼻づまりといった鼻の症状は注射型より出やすいことがあります。
副作用の出方には、注射型とは異なる特徴があるという点を理解しておくことが大切です。
フルミストを接種できる対象者と接種できない人
フルミストは誰でも接種できるわけではありません。年齢や体調によって接種の可否が決められており、あらかじめ確認しておくことが大切です。
ここでは、接種対象に含まれる人・含まれない人の条件をわかりやすくまとめました。
対象年齢は2歳以上19歳未満に限定されている
フルミストは2歳以上19歳未満の人を対象として承認されています。2歳未満の乳幼児と19歳以上の成人は、国内の承認条件から外れており接種できません。
この年齢制限は、国内で実施された臨床試験が2〜19歳未満を対象に行われたことや、2歳未満では海外の試験で入院や喘鳴の報告がみられたという背景から設けられています。
安全性を考慮した基準として、現在もこの年齢範囲に限定されています。
免疫機能に異常がある人や妊娠中の人は接種できない
フルミストは生ワクチンのため、免疫機能に影響がある人は接種を控える必要があります。
- 免疫機能に明らかな異常があると診断されている
- 免疫を抑える治療を受けている
- 妊娠していることが明らかである
妊娠を希望する人は、接種前後の時期について医師と相談する必要があります。
また授乳中の人は、接種後しばらくのあいだ乳児との密な接触を控えるよう推奨される場合があります。
喘息や重度のアレルギーがある人は注意が必要
フルミストは鼻に噴霧するタイプのワクチンのため、呼吸器の状態によっては注意が必要な場合があります。
- 喘息の症状が強い
- 免最近喘鳴(ゼーゼー)があった
また、ワクチンに含まれる成分(卵・鶏由来成分)に対してアレルギーの心配がある場合は、事前に医師と相談が必要です。特にゼラチンアレルギーがある場合、接種できないことがあります。
そのほか、発熱があるときや体調がすぐれないときは、回復してから接種を検討するのが一般的です。
接種回数は1シーズンに1回
フルミストの接種回数は、年齢に関係なく「1シーズンにつき1回」とされています。
海外では8歳未満で初回接種の場合に2回接種とされているケースもありますが、日本国内では臨床研究の結果から1回接種でも十分な免疫がつくとされています。
なお、1シーズン内に複数回接種した場合のデータは十分に評価されていません。そのため、1シーズンは1回のみという運用になっています。
フルミストと注射型ワクチンの違いと選び方
インフルエンザワクチンには、注射で接種する「不活化ワクチン」と、鼻に噴霧して接種する「フルミスト(経鼻ワクチン)」の2種類があります。
現時点では、どちらか一方が明確に優れていると示す一般的な科学的結論はありません。年齢や体質、持病の有無などを踏まえて、医師と相談しながら適した接種方法を選ぶと安心です。
費用は注射型よりやや高めだが通院回数の違いも考慮される
フルミストの費用は医療機関によって異なりますが、8,000〜10,000円程度が目安とされています。
注射型ワクチンは 1回3,000〜4,000円程度が一般的で、1回接種で済む年齢の場合は注射型の方が費用が抑えられる傾向があります。
一方で、13歳未満では注射型ワクチンは2回接種が必要となることがあるため、合計の費用差は小さくなります。
またフルミストは1回の接種で完了するため、通院の手間が少なくなる点をメリットとして挙げる医療機関もあります。
令和7年からは、多くの自治体でフルミストが助成対象に加わりました。自治体や加入している健康保険組合によって助成内容は異なるため、事前にお住まいの地域の制度を確認することをおすすめします。
子どもの年齢や体質に合わせて選択する
ワクチンを選ぶ際は、まず接種可能な年齢であるかを確認します。
フルミストは 2歳以上19歳未満に限られているため、それ以外の年齢では注射型ワクチンを検討することになります。
体質面では、以下の点に注意して選ぶことが一般的です。
- 喘息や呼吸器の持病がある場合
医師の判断によっては注射型ワクチンが推奨されることがある - 痛みに敏感な場合
フルミストは針を使わないため、心理的負担が少ないと感じる人もいる - 鼻炎が強いときや鼻づまりがある場合
フルミストは経鼻接種のため、体調を整えてから接種することが望ましい場合がある
最終的には、お子さまの体調や接種への抵抗感、家庭のスケジュールなどを踏まえ、医師と相談しながら無理のない方法を選ぶことが重要です。